何度も出入国を繰り返してはいるものの、11年間台北が生活の拠点であった。学校に通った。会社員もした。結婚した。二胡を習い始めた。出産した。不動産屋を通じて、部屋の賃貸契約を結んだ。大小様々な病院に行って、診察を受けた。現日本語講師でもある。
中国語に惚れ込んで、必死に勉強して、日常会話なら心配ない程度まで来たからであり、また多くの人々の支えや援助があっての毎日だった。
しかし、まさかわが生涯で弁護士さんを訪ねる必要な状況になるとは、おそらく一度も想像したことがなかった。
二胡母にはこの11年間、台北在住、兵庫県宝塚市出身のシスターとの親交がある。このシスターの修道会が世話になったことがある、という弁護士さんを紹介してもらっていた。「朴訥な感じのする、いい人」ということだった。
とは言え、初めての弁護士事務所訪問は、質問する内容を綿密にまとめたり、約束の時間に、迷子にならずきちんと行けるかなどなど、緊張は避けられなかった。遅れるのは失礼だし、二胡母、筋金入りの方向音痴でもある。
昨日は小雨降る中、バスを降り、通行人ひとりと、パトロール中の警察官に尋ねて、その住所を捜し当てた。
地震が来ても揺れそうにない、重厚感ある立派なビル。そこの4階1号室。順調に行けたので、20分ほど早く着いた。羅律師(中国語で弁護士を“律師”という)は10分くらいで外から戻り、応接室に現れた。空気の和む笑顔、60歳前後だろうか。
相談の詳細は言えないが、やはり専門家に話す、聞けることはすごい威力を持っている。素人が勝手にあーだこーだやってる感のある事柄が命を持ち、動き、語り始める。専門家から見て論理的か、妥当か、それを確かめられるだけでも前進であり、収穫だ。
羅律師は、人情に厚い、金儲け二の次の温かな人物だった。持っている専門知識は同じでも、弁護士の人柄により、意見やアドバイスがちがい、しんどい目に遭うこともあるらしい。十分その人柄で弁護士を選ぶ必要がある。
昨日、羅律師に会うまでと会ってからの世界は変わった。感謝感謝の一日だった。二胡母も、人を助けられる者になりたいと思った。
謝謝。心から。