彼女は、3月まで二胡母が住んでいたマンションの下の階の台湾人男性のもとへ、仲介業者を通じてお見合いをして、ベトナムから嫁入りした人だ。小1の息子と小3の娘がいる。彼女はいわゆる副収入を稼ぐために、マンション住人が出すごみを分別し、市のごみ収集車が来る午後2時頃までに門の外の道路際に出したり、マンション内外の清掃をしている。休みは水曜日と日曜日だ。
彼女とはちょくちょく話す機会があった。子供の年齢は近いし、「外国人妻」で同類項に入る。それに彼女は朗らかで人懐っこい。
“嫁不足”傾向にある台湾は、国際結婚仲介業者に頼み、ベトナムや中国からお嫁さんをもらう男性はそう珍しくない。お金を出して、外国から奥さんをもらうのだ。
よって、どうしてもそういう妻の立場は台湾人の夫より弱いのが常だ。その彼女は一人っ子の二胡母とちがって、10人きょうだいがいるが、両親はもうかなり高齢で、お母さんが病気がちだという。そうでなくても、子供をつれて、せめて1〜2年に一度は里帰りしたいのは当然だ。
だが、彼女の夫は許さない。二胡母もここ1〜2年は自腹を切って日本へ帰っているが、ベトナム妻は毎月わずかずつ貯金して、故郷に帰る日を楽しみにしているが、それでも「仕事はどうするんだ。家事はどうするんだ」と夫はいい顔をしない。ケンカもしょっちゅうだと言う。
「ベトナムに帰ったまま、もう台湾に戻りたくないと思うわ、時々。でも、子供たちがここにいる限り、それも………」
彼女は親子3人で帰国するお金をためるまで待てないから、一人で帰るつもりだ。
国際お見合い結婚した夫婦が、すべてそんなふうではないとは思うが、聞いていてつらい。肩や腕が痛い職業病を持ちつつ、頼みを聞いてくれない夫を尻目に耐えている彼女はえらいと思う。二胡母だったら、どうしていただろう。絶対ダメだ。
それは、私たちが生まれ育った環境なども影響しているとは思う。彼女はきっと農村部の裕福とは言えない家庭で育ち、いわゆる“もっと広い世界”を見ていない。生き方の選択肢が意外に多いことも考えないかもしれない。それがいいとか悪いとかではなく、そんなことを思い描いてはため息をつく私だ。